八幡市内で「おさぜん農園」と聞けば、まず「いちご狩り」を思い浮かべる人が多いかもしれません。
実際、おさぜん農園では現在もいちご狩りを行っており、年間4万人を超える来園者を集めています。
ただ、会社の現在地を調べていくと、それだけでは説明できないことが分かってきます。
自社でいちごを栽培する。
そこから観光農園を始める。
加工品やOEMに広げる。
卸売を行う。
夏いちごにも取り組む。
他の農家を支援する。
いちご農家向けのコンサルティングを行う。
農業用ハウスや設備にも関わる。
滋賀県守山市では農地の承継にも取り組む。
さらに2025年には物流機能の外部委託まで始めています。
つまり、おさぜん農園は「いちごを売っている農家」ではありません。
いちごを起点として、農業、観光、加工、物流、人材育成、農家支援、地域との接点まで事業を広げてきた会社です。
そして、この会社の面白さは「何をやっているか」だけではありません。
「一つの事業を始めたあと、その周辺にある問題や可能性を見つけ、次の事業につなげていく」
そんな広がり方をしているように見えることです。
これは八幡ビジネス通信が、八幡市の企業を調べていて感じたことでもあります。
一つの会社を詳しく追っていくと、その会社だけではなく、農業、物流、雇用、地域、行政、観光など、別々に見えていたものがつながってきます。
この記事では、おさぜん農園がどのように事業を広げてきたのかを整理したうえで、最後に「これから何ができるのか」を八幡ビジネス通信なりに考えてみます。
→ 「八幡経済圏の注目企業」
おさぜん農園とは?八幡のいちご農家から広がった事業
おさぜん農園の所在地は八幡市内です。
おさぜん農園は、八幡市を拠点にいちごの生産・販売を行う農業法人です。
現在は、いちご狩りなどの観光農園に加え、加工・OEM、卸売、農家支援、コンサルティングなどにも事業を広げています。
その歩みをたどると、長く続く農家を背景にしながら、いちごを中心に事業領域を広げてきたことが分かります。
- 観光農園としてのいちご狩り
- 加工品
- OEM
- 卸売
- 夏いちご
- 新規就農者の支援
- いちご農家への技術・経営支援
- 農業用ハウスや設備への関与
そして現在は八幡だけでなく、滋賀県守山市にも農場があります。
農林水産省の2026年の紹介記事では、おさぜん農園は「いちご専門の農業法人」であり、「農業ベンチャー」として紹介されています。
この表現はかなりしっくりきます。
昔ながらの農家をそのまま大きくしたというより、「いちご」という農産物を中心に、新しい事業を次々に組み合わせてきた会社だからです。
しかも、農業そのものだけではありません。
- 観光客に来てもらう
- 商品を作る
- 他の農家とつながる
- 農業を始めたい人を支援する
- 企業と組む
- 地域と接点を持つ
こうして見ていくと、「農業」という言葉だけでは少し狭く感じます。
約100年続く農家から、なぜ「いちご」だったのか
おさぜん農園の話で興味深いのは、いきなりベンチャー企業として始まったわけではないことです。
もともとは約100年続く農家でした。
その農家が、いちご栽培に可能性を見つけた。
そして2007年ごろから本格的にいちごを栽培するようになりました。
農業では「何を作るか」が非常に重要です。
土地があれば何でも作れるわけではありません。
地域の気候、設備、人材、販売先、収益性、作業量、消費者のニーズなど、さまざまな条件を考える必要があります。
おさぜん農園の場合、そこで選んだのがいちごでした。
そして、ここから会社の歴史が大きく動き始めます。
最初は「いちごを作る」。
しかし、いちごを作っていると、その周辺にいろいろな可能性が見えてきます。
- もっと直接お客さんに届けられないか
- 収穫する場所そのものを楽しんでもらえないか
- 形が違ういちごや余剰品を商品にできないか
- 一年を通して販売できないか
- 他の農家にも技術を伝えられないか
- いちご農家を始めたい人を支援できないか
こうした「次の問い」が、一つずつ事業になっていったように見えます。
「いちごを作る」から「いちごの価値を作る」へ
おさぜん農園の成長を考えるとき、重要なのはここだと思います。
「いちごを作る」だけなら、農業生産の会社です。
しかし、おさぜん農園はそこから先へ進みました。
例えば、いちご狩り。
これは、いちごそのものだけを売っているわけではありません。
- 「いちごを食べる体験」を商品に
- 農園まで来てもらい、自分で摘み、その場で食べてもらう
- 子どもにとっては食育
- 家族にとっては休日のレジャー
農園にとっては、いちごそのものだけでなく「農園に来てもらう理由」が生まれます。
ここには、農業と観光がつながっています。
- 加工品やOEMに進めば、今度はいちごと食品製造がつながる
- 卸売に進めば、小売店や飲食店などとの関係ができる
- 農家支援に進めば、今度はいちご農家同士のネットワークができる
つまり、最初は一つだった「いちご」が、事業を広げるたびに別の産業と接続していきます。
これは、おさぜん農園を理解するうえでかなり重要なポイントではないでしょうか。
2012年、農園は「会社」になった
2012年、おさぜん農園は法人化しました。
農家として農産物を作ることと、会社として事業を経営することは、似ているようで違います。
作物を育てれば終わりではありません。
- 従業員を雇う
- 売上を作る
- 設備投資
- 顧客を増やす
- 事業計画を考える
- 新しい事業に投資
- 会社を続けるための利益を確保
こうした経営上の課題が出てきます。
実際、長村さん自身も経営について学んできたことを公に語っています。
京都経営研究会のインタビューでは、家族経営から従業員を抱える組織へ変わっていく中で、経営者としての考え方を学んだことが紹介されています。
ここは、おさぜん農園を見るうえで見逃せない部分です。
農業技術だけで会社が大きくなったわけではありません。
- 「人をどうまとめるか」
- 「経営者としてどう考えるか」
- 「会社をどう成長させるか」
という問題にも向き合ってきたからこそ、現在の事業展開につながっているのでしょう。
いちごを起点に、どのように事業が広がったのか
いちごを作ったら、次は「いちごをどう使うか」を考えた
ここからのおさぜん農園は、さらに面白くなります。
いちごを作る。
それだけではなく、そのいちごを使って何ができるかを考えるようになります。
- 加工品
- OEM
- イベント
- 百貨店などでの販売
- 「いちごの庭」
- 夏いちご
こうした取り組みが積み重なっています。
農業の弱点の一つは、作物そのものだけでは価格をコントロールしにくいことです。
だからこそ、農家が加工や販売、体験などに関わることで、農産物の価値を別の形に変えることができます。
これは「六次産業化」と呼ばれる考え方にもつながります。
一次産業である農業だけではなく、加工などの二次産業、販売・サービスなどの三次産業まで関わっていく考え方です。
おさぜん農園の場合、それを単なる制度上の言葉としてではなく、実際の事業として積み重ねてきたところに特徴があります。
「自分の農園を大きくする」だけではなかった
さらに興味深いのが、他の農家を支援する方向へ進んだことです。
普通に考えれば、自社の農場を大きくして生産量を増やすことが最も分かりやすい成長方法です。
しかし、おさぜん農園はそれだけを選んでいません。
- いちご農家を応援
- 新しく農業を始めたい人を支援
- 栽培技術や資材について相談に乗る
- ハウスや設備について支援
こうした取り組みがあります。
2021年には、新規就農者がいちご栽培を始めるためのハウス建設を支援したことも公式サイトで紹介されています。
ここまで来ると、会社の役割が変わっています。
自社でいちごを作る会社から、
「いちごを作る人を増やす会社」
へも広がっているからです。
これは非常に大きな変化です。
「農家を増やす」という発想
2024年には、日本農業と共同で「フレッシュベリープロジェクト」を開始しています。
これは、いちご農家として独立したい人を対象に、栽培技術などを学ぶ機会を提供する取り組みです。
単に自社で人を採用するのとは違います。
最終的には、参加者が独立して農家になることを想定しています。
つまり、自社の人材を増やすだけではなく、業界そのものの担い手を増やそうとしているわけです。
これは面白い考え方です。
会社から見れば、自社の外に「仲間」が増えることになります。
- その人たちがいちごを作れば、いちごの生産量も増える
- 技術を共有すれば品質も上げられる
- 販売面でも連携できるかもしれない
新しく農業を始める人にとっては、ゼロから全部を試行錯誤するより、経験のある農家から学べるメリットがあります。
つまり、
「自分の会社だけを大きくする」
という発想ではなく、
「自分たちが持っている知識や仕組みを外へ広げる」
という発想が見えてきます。
ここが、おさぜん農園の事業展開で特に注目したいところです。
OSプランニング、ハウス、コンサルティングへ
さらに調べていくと、「農家支援」という言葉だけでは収まらない事業も見えてきます。
おさぜん農園では、いちご栽培のコンサルティングを行っています。
- 農場を見てもらう
- 苗を提供
- 資材についての相談
- 収穫やパッキングについて考える
- 定期的に打ち合わせを行う
さらに、農業用ハウスや設備についても関わっています。
ここまで来ると、
「いちごを作る」→「いちごを売る」
という会社から、
「いちご農業そのものを支援する」
会社へ広がっていることが分かります。
農業には、作物だけでなく、ハウス、環境制御、苗、資材、収穫、パッキング、物流、販売など、多くの要素があります。
その一部を自社の経験として蓄積していけば、それを別の農家に提供することができます。
自社で経験したことが、次の事業の材料になる。
この循環が、おさぜん農園の強みの一つなのかもしれません。
守山にも農場を持ち、物流まで変わった
おさぜん農園の事業は八幡市内だけにとどまりません。
→ 「八幡市の企業一覧」
滋賀県守山市では、2023年に農地を承継する形で事業を広げています。
八幡で培ってきたいちご栽培の経験を、別の地域でも展開する。
これは、単純に店舗を増やすこととは異なります。
農業では、地域が変われば土地や気候、栽培環境も変わります。
守山市での農場展開には、八幡で積み重ねてきた経験を別の地域で活用するという側面がある一方、新しい環境への対応も必要になります。
さらに2025年12月からは、物流センターの機能をトランスラン社に外部委託しています。
理由として公式サイトでは、物流の柔軟性向上、リードタイム短縮、コスト最適化、品質向上などが挙げられています。
これは一見すると地味な話に見えます。
しかし、会社が大きくなるほど物流は重要になります。
- いちごを作る
- 売る
- 加工する
- 卸す
- 農場が増える
- 取引先が増える
そうなると「どう運ぶか」という問題が必ず出てきます。
つまり、物流の見直しも事業拡大の一部です。
農場や取引先が増えれば、栽培だけでなく、保管・出荷・配送の仕組みも重要になります。
2025年12月から物流センター機能を外部委託したことは、農業の規模や事業領域が広がる中で、物流体制も見直されている事例といえます。
ここまで来ると、おさぜん農園は「何屋」なのか?
ここまで整理すると、少し不思議なことになります。
おさぜん農園は何屋なのでしょうか。
いちご農家です。
間違いありません。
でも、それだけではありません。
- 観光農園
- 食品事業者
- 卸売事業者
- 農家支援会社
- 農業コンサルティング会社
- 人材育成への取り組み
- 物流にも関わり
そして、地域や企業、行政などとの接点も増えています。
こうして見ると、「いちご」は会社そのものではなく、会社が事業を広げていくための中心にある資産のようにも見えてきます。
- いちごを作る
- いちごを知る
- いちごを売る
- いちごを体験にする
- いちごを加工する
- いちごを他の農家にも作ってもらう
- いちご農家を育てる
- いちご農業の仕組みを支援する
そして、別の地域でもいちごを作る。
一つの中心から、少しずつ外側へ広がっています。
いちごという一つの軸から、観光、食品、農家支援、物流などへ事業が広がっている。
おさぜん農園を理解するうえでは、この「事業同士のつながり」に注目することが重要です。
長村善和さんは、どんな経営者なのか
ここからは会社ではなく、代表の長村善和さんについて考えてみます。
長村さんについて調べていると、農業技術だけでなく、経営や組織についてかなり考えていることが分かります。
京都経営研究会のインタビューでは、家族経営から従業員を抱える組織へ変わっていく過程で、経営者としての悩みを経験したことが語られています。
また、おさぜん農園自身が公開している講演情報を見ると、農園の多角化や組織づくりについて話してきたことも分かります。
ここで重要なのは、
「最初から全部分かっていて事業を広げた」
とは限らないことです。
むしろ、
- 問題が出てくる
- 考える
- 学ぶ
- 試す
- 結果を見る
- また次の問題が出てくる
その繰り返しで会社が変わっていった可能性があります。
これは、中小企業の成長を見るうえで非常に重要なポイントです。
最初から完璧な事業計画があったから成長した会社ばかりではありません。
目の前の問題を解決していった結果、後から見ると大きな事業構造になっていることもあります。
なぜ「自社だけ」ではなく農家を増やすのか
ここで考えたいのは、会社の成長を「自社の規模」だけで見るのか、それとも「会社の外側に広がる影響」まで含めて見るのか、という点です。
会社が成長する方法はいくつもあります。
- 自社農場を増やす
- 従業員を増やす
- 売上を増やす
- 商品を増やす
- 店舗を増やす
これらは一般的な成長です。
しかし、おさぜん農園には別の方向もあります。
「いちご農家そのものを増やす」
という方向です。
もちろん、これだけで経営上の狙いを断定することはできません。
ただ、結果としておさぜん農園の知識や技術を使う人が増えていけば、会社の外側にもネットワークが広がっていきます。
一社の農場を大きくするだけなら、その会社の中に価値が集中します。
一方で、技術や仕組みを外へ提供すれば、外部にも価値が広がります。
これは、会社の「規模」とは違う種類の成長です。
売上だけでは測れない「影響範囲」が広がっていくからです。
利益と社員――会社が大きくなる前に考えること
ここからは、八幡ビジネス通信として少し踏み込んで考えてみます。
会社が大きくなれば、社会に与える影響も大きくなります。
しかし、その前提として忘れてはいけないのが「会社の中にいる人」です。
- 経営者
- 社員
- パート
- 取引先
- 農家
- 顧客
会社を取り巻く人が増えるほど、経営者一人の考えだけでは会社は動きません。
おさぜん農園についても、今後さらに事業を広げるのであれば、
「働く人にとって、この会社はどういう場所なのか」
という問題は重要になってくるでしょう。
もちろん、外部から現在の従業員の待遇や満足度を判断することはできません。
求人情報などから一部の条件を見ることはできますが、それだけで会社全体を評価することはできません。
だから、ここでは評価ではなく「問い」として考えたいと思います。
- 会社が大きくなる
- 事業が増える
- 社会的な役割も増える
そのとき、一番近くにいる社員が幸せになっているか。
これは、どんな会社でも重要なテーマです。
Dotconを見ていて考えたこと
ここで、農業とは異なる業界の会社と比較してみます。
八幡ビジネス通信では、コンクリートポンプ車などを起点に事業を広げてきたDotconにも注目しています。
業種は異なりますが、両社には「自分たちが持つ技術や経験を起点に、周辺の課題や事業へ広げていく」という共通点が見られます。
おさぜん農園なら、いちご。
Dotconなら、コンクリートやインフラ。
そこから別の問題に手を伸ばしていく。
そして会社そのものの役割を広げていく。
八幡ビジネス通信がこの2社に共通点を感じるのは、事業内容ではありません。
「一つの核から、周囲へ広がっていく構造」です。
利己と利他は、本当に反対なのか
ここからは、おさぜん農園の具体的な経営判断を評価するものではなく、これまでの事業展開から考えられる経営と社会的な役割の関係について考えてみます。
ここで少し大きな話になります。
会社は利益を出さなければ続きません。
これは悪いことではありません。
むしろ、
- 利益がなければ社員に給料を払えない
- 設備投資もできない
- 新しい事業にも挑戦できない
- 社会的な活動も続けられない
つまり、利益は次の活動を生み出すための燃料です。
一方で、利益だけを追いかけても、会社の周囲に人が集まらなければ事業は大きくなりません。
- 社員がいる
- 顧客がいる
- 取引先がいる
- 農家がいる
- 地域がある
- 行政がある
- その人たちに価値を返す
その結果、また新しい人や仕事が集まる。
そう考えると、
「利己か利他か」
という二択ではないように思えます。
- 自分の会社を成長させる
- その利益で社員を豊かにする
- 顧客に良い商品を届ける
- 取引先にも仕事を生む
- 地域に人を呼ぶ
- 農家を増やす
- 新しい事業を作る
そして、さらに会社が成長する。
この循環ができれば、
自分のための利益が、周囲の利益にも変わっていく。
逆に言えば、会社自身が弱ければ、長期的な「利他」も続きません。
おさぜん農園がどのような意図で事業を広げてきたのか、外部からすべてを判断することはできません。
ただ、自社の生産だけでなく、農家支援、人材育成、加工、観光などへ接点を広げてきたことは確認できます。
会社の利益と、周囲に生まれる価値をどのように両立させるか。これは、おさぜん農園に限らず、事業の成長を考えるうえで重要なテーマです。
おさぜん農園の未来を、勝手に考えてみる
ここから先は、事実の紹介ではありません。
八幡ビジネス通信が、おさぜん農園を調べていて「もし、これをさらに広げるなら?」と考えた未来の話です。
経営者に提案するつもりでもありません。
農業の専門家でもないので、実現可能性を判断できる立場でもありません。
「こんなことができたら面白い」
という、一つの思考実験です。
おさぜん農園には、すでに
- いちごの生産
- 観光農園
- 加工
- OEM
- 卸売
- 農家支援
- コンサルティング
- 人材育成
- 他地域への展開
などがあります。
ここまで来ると、次に考えられるのは「いちごを農地の外へ出す」という方向ではないでしょうか。
いちごを都市へ持ち込めないか
農業は基本的に「農地」で行います。
当然です。
植物を育てるには、光、水、温度、肥料、根を張る場所などが必要だからです。
しかし、都市を見渡してみると、意外と「使い切れていない場所」があります。
- 屋上
- ベランダ
- 建物の空きスペース
- 窓際
- 商業施設
- 学校
- オフィス
- マンション
もちろん、これらすべてで農業ができるわけではありません。
- 日照条件の違い
- 水の管理
- 病害虫の問題
- 建物の安全性や管理規則
だから、「都市ならどこでもいちごを作れる」という話ではありません。
ただ、都市農業という考え方自体はすでに存在しています。
都市の中に農業を持ち込むことで、食料生産だけでなく、教育、交流、緑地、地域コミュニティなど、複数の価値を生み出せる可能性があります。
そして、おさぜん農園は「いちごを体験に変える」ことをすでにやっています。
だったら、その次に、
「いちごを街の中に置いたらどうなる?」
という発想が出てきても不思議ではありません。
「窓辺のいちご」という夢
ここからは、さらに大胆に考えてみます。
例えば、街中のオフィスビル。
窓があります。
その窓の一つ一つに、いちごの栽培ユニットが置かれている。
一つの窓で大量のいちごを生産する必要はありません。
小さな栽培ユニットを複数の建物に分散させれば、農地を一か所に集めるのとは異なる形で、都市と農業をつなげられる可能性があります。
農地を一か所に集めるのではなく、都市全体に小さな農地を分散させる。
「農地」という言葉の意味そのものを変えてしまう発想です。
例えば、
- 苗
- 培地
- 水
- 肥料
- センサー
- 栽培容器
- 自動給水
- スマートフォンによる管理
などを一つのユニットにまとめる。
利用者は難しい農業技術を知らなくてもいい。
- 設置する
- 水を補充する
- あとは基本的にシステムが管理する
- 問題が起きたユニットだけ、スタッフが見に行く
そんな仕組みです。
もちろん、現時点では夢の話です。
いちごは簡単な植物ではありません。
光、温度、水、肥料、病害虫など、安定した栽培には多くの条件があります。
ただ、農業技術は進歩しています。
- 環境制御
- センサー
- 自動給水
- データによる生育管理
- 収量予測
こうした技術を組み合わせれば、「誰でも簡単に育てられるいちご栽培ユニット」が将来的にできる可能性はあります。
実現するために必要な条件
もちろん、問題は山ほどあります。
まず日照です。
窓の向きによって全く条件が違います。
夏の高温も問題になります。
水やりも必要。
建物によっては水漏れが許されないでしょう。
病害虫もあります。
実がなれば、収穫もしなければなりません。
さらに、マンションやオフィスでは建物の管理規約があります。
- 落下物の危険性
- 重量
- 衛生管理
- 景観
- 害虫
- アレルギー
こうした問題を一つずつ解決しなければなりません。
そして一番大きな問題は、
「それで誰が得をするのか」
です。
ここを解決できなければ、どれだけ面白い技術でも事業にはなりません。
誰がお金を払うのか
これは、事業を考えるうえで非常に重要です。
「いちごが育つから売れる」
だけでは、おそらく弱い。
例えば、オフィスに設置するなら、
- 社員が育てる体験
- 子ども向けの食育
- 会社の福利厚生
- 企業の環境活動
- 地域貢献
- 採用ブランディング
- 来訪者への体験
こうした別の価値を組み合わせる必要があるかもしれません。
ホテルなら、「自分たちのホテルで育てたいちごを朝食に出す」というストーリーが作れます。
飲食店なら、「店の窓で育てているいちご」という見せ方ができます。
学校なら、農業教育になります。
高齢者施設なら、植物を育てる活動そのものが価値になるかもしれません。
マンションなら、共用部の緑化とコミュニティづくりを組み合わせられる可能性があります。
つまり、収穫量だけで勝負しない。
「都市の中にいちごがあること」そのものを商品にする。
もしそういうモデルが成立すれば、これは農業というより「都市サービス」に近づきます。
都市の中にいちごがあることで生まれる価値
例えば八幡市の街を歩いていて、ビルの窓を見る。
そこに、いちごがあります。
- 一つの建物に20個
- 別の建物に50個
- 学校に100個
- ホテルに30個
- 飲食店に10個
それぞれのおいしさや生育状況をセンサーで管理する。
街全体のいちごの状態が一つの画面で分かる。
今日はこの建物で収穫。
明日はあの建物で収穫。
収穫されたものは、
- その会社の社員が食べるかもしれない
- 近くの店に届けられるかもしれない
- イベントで配られるかもしれない
- 子どもたちが収穫体験をするかもしれない
農地が一か所にあるのではなく、
「街そのものが小さな農地の集合体になる」
という考え方です。
これが実現するかどうかは分かりません。
そもそも、採算が取れるかも分かりません。
しかし、おさぜん農園がこれまでやってきたことを見ると、こうした発想を考えてみたくなります。
なぜなら、おさぜん農園はすでに「いちごを農地だけのものにしない」という方向へ進んできた会社だからです。
- いちご狩り
- 加工
- OEM
- 農家支援
- コンサルティング
いちごを中心に、人や企業との接点を増やしています。
だから次に「都市そのものといちごをつなぐ」という発想が出てきても、それほど突飛ではないように感じます。
おさぜん農園の事業展開と、八幡ビジネス通信の共通点
これは、この記事を書いていて自分でも少し意外だったところです。
おさぜん農園と八幡ビジネス通信は、もちろん全く違うものです。
片方は農業法人。
片方は地域情報サイトです。
規模も違います。
事業内容も違います。
だから「同じ会社のようなものだ」と言うつもりはありません。
ただ、事業の広がり方には共通する部分があります。
おさぜん農園は、
いちご → 観光農園 → 加工・OEM → 卸売 → 農家支援 → 人材育成 → コンサルティング → 他地域への展開 → 物流
というように、中心から外へ広がってきました。
八幡ビジネス通信も、最初から全部を扱っていたわけではありません。
八幡市の企業情報 → 物流 → 物流施設 → 求人 → 企業別求人 → 大型開発 → 人口 → 経済データ → 歴史
そして八幡市だけではなく、京田辺市、久御山町、城陽市などを含めた「八幡経済圏」へ。
最初は「八幡の企業を紹介する」という小さなところから始まっても、情報を集めれば集めるほど、別の情報とつながっていきます。
- 物流会社を調べれば、物流施設が出てくる
- 物流施設を調べれば、求人が出てくる
- 求人を調べれば、企業が出てくる
- 企業を調べれば、開発計画が出てくる
- 開発を調べれば、人口や交通の問題につながる
- 歴史を調べれば、なぜ今の道路や街の形になったのかが見えてくる
そうやって、少しずつ情報のネットワークが広がっていきます。
おさぜん農園が「いちご」という資産を広げてきたように、八幡ビジネス通信は「地域情報」という資産を広げていく。
→ 「八幡経済圏の経済データ」
もちろん、これは八幡ビジネス通信側から見た一つの捉え方です。
長村さんが同じ考えを持っている、と言っているわけではありません。
ただ、異なる業界の会社を調べていても、「一つの核を持ち、その周辺にある問題や可能性を一つずつ事業に変えていく」という構造には興味を持ちます。
会社の規模ではなく、つながりの広がりを見る
企業の成長というと、
- 売上10億円
- 従業員100人
- 店舗10店舗
といった「数字」で考えがちです。
もちろん、それは重要です。
しかし、おさぜん農園を調べていると、もう一つの成長の形が見えてきます。
「つながっている人が増える」
という成長です。
- 自社の従業員
- 来園者
- 取引先
- 農家
- 新規就農者
- 企業
- 学校
- 地域
- 行政
- メディア
さまざまな人との接点が増えています。
接点が増えれば、情報も入ってきます。
情報が入れば、新しい課題が見えます。
課題が見えれば、新しい事業が生まれる可能性があります。
そして、その事業を通じてまた人が増える。
こう考えると、
「会社を大きくする」
というより、
「会社を中心としたネットワークを大きくする」
という見方もできます。
これは農業に限った話ではありません。
物流会社でも同じです。
- 物流会社が荷主とつながる
- 荷主が増える
- 倉庫会社とつながる
- 求人が増える
- 車両会社とつながる
- 地域に雇用が生まれる
- 行政とつながる
- 街づくりの話につながる
企業は単独で存在しているように見えて、実際には周囲との関係の中で動いています。
おさぜん農園を追っていくと、そのことが非常によく分かります。
これから、おさぜん農園はどこへ向かうのか
おさぜん農園が今後どの方向へ進むのかは、現時点では分かりません。
ただ、これまでの事業展開を見ると、いちごの生産だけでなく、加工、観光、農家支援、設備、物流、他地域への展開など、複数の領域に関わってきました。
おさぜん農園を「八幡のいちご農園」という一言だけで捉えると、事業の広がりが見えにくくなります。
だからこそ、今後も一つの農園としてだけでなく、八幡経済圏から周辺の産業や地域へつながる企業として追っていきたいと思います。
だから、八幡ビジネス通信はこれからも追いかけたい
企業の記事を書くとき、
「この会社は何をしている会社です」
だけで終わってしまうと、企業紹介で終わります。
しかし、本当に知りたいのは、その会社がどのように事業を広げてきたのか、誰とつながり、地域にどのような影響を与えているのかという部分です。
なぜ、その事業を始めたのか。
次に何を始めたのか。
なぜ別の地域へ進出したのか。
どのような企業や人と関わっているのか。
その結果、地域に何が起きる可能性があるのか。
こうした点まで追っていくと、一つの企業から地域経済の動きが見えてきます。
おさぜん農園についても、今回の記事で終わりではありません。
今後、新しい事業、新しい農場、新しい商品、新しい採用、新しい地域連携などが確認できたときには、この記事や関連するデータを更新していきます。
八幡の街で、いま何が起きているのか。
その一つを知るために、おさぜん農園という会社を追ってみる。
企業を継続的に調べることは、地域経済の変化を記録することにもつながると考えています。
八幡ビジネス通信の視点
企業を紹介して終わりではなく、その後の動きも記録しながら、地域経済の変化を追っていきます。

